いよいよ夏休み、就職に向けて日本や海外でインターンシップに挑戦しようという方も多いと思います。果たして海外インターンシップは就職に有利なのか、前回は文系の大学生の事例をお話しました。2回目となる今回は理系のインターンシップの事例についてお話します。
世界で必要とされている理系の人材
先日、ソフトバンク社が半導体設計の英アーム・ホールディングスを3兆3000億円で買収したというニュースが話題となりました。これは「IoT」関連事業への期待があるとみられていますが、近年は世界的なIT産業の拡大により、エンジニアなどの理系の人材が求められています。文部科学省も小学校でのプログラミング教育の必修化を検討すると発表しました。 海外に目を向けると、米シリコンバレーやシンガポールには世界中から優秀な人材が集まってきており、グローバルに活躍できる理系の人材育成が日本でも喫緊の課題となっています。 筆者もこれまで大学のグローバル人材育成に関わってきました中で、特に最近は東工大や東京理科大など理系の大学や慶應や早稲田を始めとする理工学部のグローバル教育が目に見えて増えてきたのを実感していました。 ここで、過去に参加した理系のインターンシップの事例を見ていきながら、海外インターンシップのメリット・デメリット、就職活動への効果を考えたいと思います。
ケース2 アメリカ・シリコンバレー 理系大学生Aくん(男性)
参加の経緯 東京の私立の大学に通うAくんは、理工学部の3年生。将来はアメリカの大手IT企業で働きたいという思いがあり、教授のお勧めによりシリコンバレーでのインターンシップに挑戦することにしました。とは言っても、Aくんは初めての海外。一番心配だったのが英語でした。
参加準備 Aくんに限らず、理系の学生の最大のネックが「英語」です。ここを気にするあまり、一度も海外に行かない学生も多いのが現状です。 海外インターンシップに必要な英語力は、一般的にTOEIC700点以上と言われています。ただし、TOEICはスピーキング力を判断する部分が欠けており、実際には英語のインタビューをクリアできるだけの会話力も必要です。 彼の場合は、スカイプを使った英語面接対策コースを1月から受講。3ヶ月間かけて本番のスカイプ面接に臨む計画です。最初は英単語が全く出てこず、自己紹介もままらないところからのスタートでした。前回記事でもお話した通り、海外の企業が面接をする際に重視するポイントは、「Education(学部・専攻)」「Work Experience(職務経験)」の2つ。理系のインターンシップ面接の場合は上記の他に「Skill(特技・技能)」も重要なアピールポイントです。プログラミングができるとか、C/C++ 、Java、JavaScript、PHPなどの具体的な言語も入れてあると、なお説得力を増します。 Aくんも日々の努力の結果、自己紹介のレベルから自己PRのレベルまで何とか3ヶ月間であげることに成功しました。 本番の英語面接で思いのほか苦戦! 現地のIT企業とのスカイプ面接の1社目、彼は致命的なミスを犯してしまいます。通常はパソコンのカメラをオンにして相手の表情や雰囲気もチェックされるのですが、あまり上手く話せなかった上に、シャイな性格が裏目に出て笑顔が全く出なかったのでした。アメリカでは第一印象が特に大切です。履歴書の写真などもそうですが、口角を上げて歯を見せるくらいの笑顔が面接の際にも求められるのです。 2社目の面接では、笑顔に注意して臨んだのですが、「あなたをブランドに例えると何ですか?またその理由は?」という全く想定していない質問に動揺してしまい、不合格となってしまいました。背水の陣で臨んだ3社目でなんとか合格を勝ち取ることができました。
いよいよ念願のインターンシップ開始!
Aくんのホストカンパニーは、シリコンバレーにあるWebデザイン会社で、社員数が10名ほどのいわゆるベンチャー企業でした。
社員もみんな20代、服装もTシャツにシーンズというラフな格好で、オフィスも工場だったところを綺麗に改装したおしゃれな雰囲気。自由でクリエイティブなイメージそのままだったので、初日にしてテンションが上がったのですが、実際に仕事が始まると状況が一変します。
そこで彼が任された最初のタスクは、顧客のデータ入力という単調なものでした。真面目にこなせばもっと面白い仕事が回ってくるだろうと期待して最初の1週間はひたすらデスクワークに打ち込みました。ただ、2週目に入り、今週のタスクも引き続きデータ入力ということを告げられると、だんだん不安になってきました。
日本では高校時代に自分でアプリを開発したこともあり、最新のIT技術に触れたいということが彼の希望だったのですが、英語力もあまりないため、このまま単調な作業だけで終わってしまうのでは?と不安になってきたのです。
スーパーバイザーのデイビッドに相談することにしました。
相談の結果
デイビッドからは一言「どんなことがしたいの?提案は?」と言われ、ここで初めて具体的に何もアイデアが出てこないことに気がつきました。Aくんのイメージでは、仕事は上司が与えてくれるものというものだったのですが、改めてそうではないことに気がつきました。
次の日からAくんがしたことは、コピーを取りに来たスタッフに何か困っていることはないかと、自分から話しかけることにしました。オフィスのニーズを把握しようという狙いです。すると、スタッフの多くがマルチタスクでいくつもの案件を抱えていて、思うようにプロジェクトが進んでいないということがわかりました。
打開策 彼は上司の許可をもらって、その中から特に進行の遅れているプロジェクトのメンバーに加えてもらい、写真加工を中心としたタスクをドンドンこなしていきます。PhotoshopもIllustratorも問題なく使えるということが分かると、一気に周囲の信頼感も増し、デザイン会社のブログも任されるようになりました。 参加して感じたこと インターンシップ開始当初は、緊張もあり英語のハードルを自分自身であげてしまっていたとAくんは言います。彼の場合は、Photoshopを使えることがきっかけで仕事を勝ち取ることに成功しました。その後会議ではスピードが速すぎてわからない局面もありましたが、自信をもって話すことで相手にも伝わるように変わっていったと言います。 就職活動 インターンシップが終わり帰国してからも、受入企業のCEOとも東京で会食したり、Linkedinで同僚と連絡を取り合ったりと、積極的に現地の情報収集を続けていました。そこで得た情報をもとに、シリコンバレーの大手IT企業が1年間の有給インターンを募集していることを知り、見事世界の優秀な学生の中から選抜されました。 将来は、シリコンバレーで起業したいと語るAくん。これからが楽しみです。
Aくんの経緯 海外短期インターン(シリコンバレー)→有給インターン(シリコンバレー)→IT企業内定(シリコンバレー)
専門家の視点で考える成功のポイント
ITのインターンシップは英語も大切だが、スキルが突破口に 実は多くの理系の学生が英語で苦しんでいるといいます。大学の実験や研究で忙しい日々の中で英語学習に時間を割くことができにくい現状があるのでしょう。 マーケティングやセールスなど文系のインターンシップはとにかく英語やコミュニケーション能力が大切なのは言うまでもないですが、今回のAくんのようにエンジニアなどの理系のポジションの場合は、IT系のスキルがあれば活躍するチャンスは出てきます。特にC/C++などのプログラミングスキルがあれば、即戦力とみなされることも多く、有給のポジションの可能性もあります。 理系の学生こそ海外インターンシップを 大学の授業が忙しいことがハードルとなってなかなか参加しづらい傾向の理系の海外インターンシップですが、大学で培ったスキルと海外でのビジネス経験があれば、自分でビジネスを立ち上げることも可能、まさに鬼に金棒です。 IT関連の分野では、今後ますますグローバルに活躍できる理系の人材が求められています。忙しい座学の合間をぬって海外インターンシップに挑戦する価値があるのではないでしょうか。
"JOY OF WORK"
Ryugaku Sommelier