社会のグローバル化が進み、よりタフで実践力のある人材が求められるようになるにつれ、海外インターンシップに関心があるという人も増えています。 果たして海外インターンシップは本当に就職に有利なのか、また企業側の要望に応えることができるのか、アメリカの専門機関で学生や社会人のインターンシップに関わってきた経験を持つ筆者が過去の参加者の事例をもとに考察します。
海外インターンシップとは
近年は日本の企業でも、採用活動の一環としてインターンシップを実施するところが増えています。一方、海外においてはすでにインターンシップの文化が根付いており、学生時代から実務を経験し、キャリアアップにつなげているビジネスパーソンが少なくありません。特にアメリカはインターンシップ発祥の地と言われ、受け入れ側の企業も荒削りでもクリエイティブで柔軟な発想を持つ若者を受け入れる土壌が整っています。 「海外インターンシップ」として、日本から派遣される国としては、英語圏のアメリカ・カナダ・イギリス・オーストラリア・ニュージーランドなどが主流となっていますが、その内容は様々です。一般的にインターンシップと謳っていても実情は語学研修の延長だったり、アルバイトのような感じだったりすることも多いので、目的に合わせてインターンシップ内容(あるいはビザの種類)を選択していく必要があります。 ここで過去に参加した文系・理系2名のインターンシップの事例を2回に分けて見ていきながら、海外インターンシップのメリット・デメリット、就職活動への効果を考えたいと思います。1回目となる本記事では文系のインターンシップの事例を紹介します。
ケース1 アメリカ・サンフランシスコ 文系大学生Sさん(女性)
参加の経緯 大阪の大学に通うSさんは、外国語学部の2回生。高校時代にニュージーランドに1年間留学した経験があり、将来は英語を使った仕事に就きたいという願望があり、マーケティングに関心があったそうですが、まだ具体的なところまでは決まっていないようです。 そんな際に同じ学部の先輩から薦められて2回生の夏休みにサンフランシスコでのインターンシップに挑戦することにしました。ビザのスポンサー団体が行う事前の英会話チェックは難なくクリア、インターンシップ用のJ-1(交流訪問者)ビザ取得に向けて、英文履歴書作成や受入企業の選定の準備に移りますが、ここで苦戦することになりました。英語力は問題なかったのですが、受入企業の選定の段階でなかなか面接に至りません。なぜでしょうか? 参加準備 実は、海外の企業はインターンを選考する際に、まずは英文履歴書での書類審査となることが多いのです。その際に重視されるポイントは、大学生の場合、「学部・専攻(Education)」「職務経験(Work Experience)」 の2つ。特に学部・専攻は大切で、Sさんの場合は外国語学部のため、ビジネス系のポジションには採用されにくいという落とし穴があったのです。 幸い、国際協力の授業を取っていて東北でのボランティア経験もあったため、スカイプでの面接の結果、現地NGOでのインターンシップが決定しました。文学部や外国語学部の方でマーケティングやマネジメントなどのビジネス系のポジションを希望する方は、履歴書に書けるようにアルバイトや大学の授業などで押さえておくといいでしょう。
インターンシップ開始、しかし・・・ 今回の内容は、日本とアメリカの文化的架け橋となることを目的としたNGOでのマーケティング・アシスタントという立場で6週間の採用。と言っても、最初の1週間はひたすらデータ入力のみで終わりました。 「どうしよう。このままではマズいな~。」 もともとコミュニケーション能力をあげたいという思いで参加したので、焦りと危機感を感じたと言います。上司に相談すると、何ができるか案を出して欲しいということ。その週末は観光に行かず、月曜日のミーティングに向けて企画書の作成に没頭し、何とかWordにまとめ上げました。 打開策 彼女が提案したのは、団体のブログで日本との関わりのある会社にインタビューし、その取り組みを紹介するというもの。ミーティングでの発表の後、上司からはそのプロジェクトの進行を任され、早速翌日よりスタートしました。 まずは該当の企業をリサーチし、リストアップしていきます。次に企業に電話をかけてアポ取りに挑戦しましたが、ここで再度壁に当たります。アポを取るどころか、全く相手にされない始末です。1件のアポも取れないまま3日間が過ぎた頃、ようやく1件繋がりました。ラッキーな事に翌日に訪問できることになり、先輩社員と一緒にインタビューを実施、記事にまとめてサイトにアップすると社内でも好評で上司からも「Good Job!」と初めて褒められました。 参加して感じたこと 海外ではよく「仕事は与えられるものではなく、自分で勝ち取るもの」と言われますが、Sさんも初めてその意味がわかったと言います。ミーティングの際に自分で提案し、結果につながることによって周囲からの評価も良くなり、うまく仕事がまわり出したということでした。 就職活動 Sさんはその後、3回生の夏休みに日本企業でのインターンシップも経験しますが、日本と海外それぞれの「仕事のスタイルの違い」や「どうやって困難を乗り越えたか」を就職のエントリーシートや面接の際にアピールすることで、他の学生との差別化をはかれたと言います。 結果、第一希望であった大阪に本社のある食品メーカーから内定を勝ち取ることができました。 Sさんの経緯 海外インターン(サンフランシスコ)→食品メーカー(マーケティング)内定
専門家の視点で考える成功のポイント
どのインターンシップに参加するか Sさんの場合、将来は英語を仕事に使って働きたいという大まかな願望があり、J-1ビザを取得してサンフランシスコでのインターンシップに参加しました。彼女のようにある程度ベースとなる英語力がある場合は、今回のように実践的な内容が合っていたと思います。英語力も同時に身に付けたい場合は、語学学校に通いながら、「就業体験」として経験するという方法も多くの英語圏の国で実施しています。 仕事がもらえない時 前述のSさんの言葉にある通り、海外では仕事は自分で勝ち取るものという考え方があります。日本のインターンシップと違い、タイムスケジュールで全てが決まっているようなことはありません。まずは与えられたタスクをこなし、次の高次なタスクに関してはスーパーバイザーとの話し合いでステップアップしていきましょう。 海外のミーティングの注意点 日本と海外ではミーティングや会議の中身がかなり違います。日本では多くの場合、上長の意図や会議進行の流れを汲み取って、タイミングよく発言することを求められます。また部課長とのコンセンサスも大切です。アメリカに代表される欧米の会議スタイルでは、「出る杭は打たれない」ので、まず「発言すること」が絶対です。 インターンシップに参加して間もない頃は、英語のスピードも早くてついていけない人も多いと思います。まずは「いいと思います」だけでもいいので、自分の口から言葉を発することが第一歩。少しずつ慣れてくると、Sさんのように、より新しいアイデアを提案していければ職場での株が上がります。 常に履歴書のアップデートを 英文履歴書では、特に「職務経験(Work Experience)」がポイントです。日本語と違い、常に上に最新の経歴を書いていきます。大学生の場合は、アルバイトでも大丈夫。外資系企業の場合は、海外での職業経験があるかどうかが重要です。短期間でも海外での実務経験について自信を持ってアピールしましょう。 文系の海外インターンシップは就職にどれくらい有利か 大学生の海外でのインターンシップは参加期間がだいたい4週間〜8週間が主流だと思います。日本のインターンシップに比べると長いものの、その短期間で企業が求める実践的なスキルが身につくかどうかは疑問です。 採用側から評価されるポイントとして、ある大手メーカーのグローバル人事課の担当者は、「困難な状況でも乗り越えることのできるバイタリティ」が大きいと言います。面接官も社会人なので、サークル活動やアルバイトの経験より、仕事上の具体的なエピソードの方が聞きやすいというのもあります。日本のインターンシップが当たり前になってきた昨今、海外インターンシップに参加して差別化を図る学生が増えているようです。 次回は理系のインターンシップのケースをお話する予定です。お楽しみに。
"JOY OF WORK"
Ryugaku Sommelier